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精神科地域包括ケア病棟の問題点

  • 精神科の包括ケア
  • 4月29日
  • 読了時間: 6分

更新日:7 日前



精神科地域包括ケア病棟

令和6年度の診療報酬改定で、精神科地域包括ケア病棟入院料というものが新設されました。このメリット、デメリットについて述べたいと思います。


目次


診療報酬とは

診療報酬とは、行政が決めた保険医療の価格です。日本では、入院の料金や外来通院の料金などの価格を医療機関が決めるのではなく、行政が決めています。行政は、2年毎に診療報酬を改訂し、医療の価格設定を変えて、医療機関に経済的インセンティブ(またはディスインセンティブ)を与えて、医療機関の経営方針を左右する権限を持っています。行政は診療報酬改定により医療政策を誘導することができます。


精神科地域包括ケア病棟の目的

行政が精神科地域包括ケア病棟入院料というものを新しく作った目的は、精神科病院の長期入院を解消することです。行政の資料には、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築を推進する観点から、精神疾患を有する者の地域移⾏・地域定着に向けた重点的な⽀援を提供する精神病棟について、新たな評価を⾏う。」と記載されています。地域移行とは入院患者を退院させるという意味です。つまり、精神科地域包括ケア病棟とは、退院を支援する病棟という意味になります。


精神科病院についてよく知らない人は、なぜ退院を支援する必要があるのか分からないと思います。「もっと入院していたい人を退院させようとするなんてひどい」と誤解する人もいるかもしれません。しかし、これには日本の精神科病院の闇が関係しています。精神科病院に入院している人の多くは、退院したいのに退院させてもらえないのです。


精神科病院の強制入院

退院したいのに退院できない理由の一つは、精神科病院への入院が強制入院だからです。本人の意志に反して入院させられている人が半分ほどいます。たとえば、強い興奮状態で他人に危害を加える人は、社会平和のために強制的に入院させられても仕方ないかもしれません。しかし、精神科病院に強制入院させられている人の中には、他人に迷惑をかけていないのに強制入院させられている人がたくさんいます。これは人権的にも法律的にも問題であり、弁護士の管理団体である日本弁護士連合会は、精神科病院の強制入院が過剰であると強く批判しています。


精神科地域包括ケア病棟による退院促進インセンティブ

退院したいのに退院できない理由の一つには、精神科病院の経営問題もあります。精神科病院に入院する人は年々減っていて、精神科病院の収益は年々下がっています。多くの精神科病院は、このまま収益が減り続けると、赤字になったり、借金が返せなくなったりして、倒産するリスクがあります。収益を減らさないためには、患者をあえて退院させないとか、あれこれ理由をつけて退院時期を延期させるなどの方法がとられます。精神科病院の収益のために、退院できない人がいるというのもひどい話ですが、精神科病院は倒産を避けるために退院を抑制してしまうのです。精神科地域包括ケア病棟では、退院を支援することで入院価格が高くなり、精神科病院の収益が増える仕組みとなっています。収益のために退院させない状況を変えるために、精神科地域包括ケア病棟入院料を引き上げて、精神科病院に退院を促す経済的インセンティブを与えているわけです。


精神科地域包括ケア病棟により社会的入院を減らす

精神科病院を退院したいのに退院できないもう一つの理由は、介護や住まいが見つからないからです。統合失調症という精神疾患になると、一部の人は認知機能が障害されてしまいます。これは認知症や知的障害に似た症状で、知能が低下するものです。また、意欲や活力も減ってしまいます。このような症状から、家事ができなくなったり、仕事ができなくなったりするため、一人で生活することが難しくなります。このために、グループホームというシェアハウスのような施設を利用したり、ヘルパーを利用したりなどの障害福祉サービスを利用して生活できるようにします。こうした障害福祉サービスが整わなくて、何年も精神科病院に入院している人たちがいます。これは社会的入院と呼ばれ、社会問題になっています。


障害福祉サービスを整えて退院支援

精神科地域包括ケア病棟では、障害福祉サービスを整えて退院を支援してくれます。障害福祉サービス等事業者、介護サービス事業所、⾏政機関(都道府県、保健所、市町村)等と連携することが、精神科地域包括ケア病棟における決まりになっています。このように、障害福祉サービスを整えて退院したい人を退院させる仕組みは、素晴らしいことです。これを問題視する人は少ないと思います。


精神科地域包括ケア病棟と精神科救急医療

しかし、精神科地域包括ケア病棟を作る条件には、精神科救急医療を重点的に行うことが含まれています。精神科救急医療とは、強制入院のシステムであり、たとえば、強く興奮して周囲に迷惑をかけている人などを精神科病院に強制的に入院させます。ここにおいて問題が生じます。精神科地域包括ケア病棟は、強制入院を増やす仕組みになってしまっているのです。


先ほども述べたように、日本の精神科病院への強制入院は過剰であり、日本弁護士連合会は日本の強制入院は人権侵害であると批判しています。日本国内からだけでなく、国連などの国際機関も日本の強制入院のシステムを批判しています。精神科地域包括ケア病棟が、人権侵害の問題のある強制入院を促進することにつながってしまうのは良くありません。


強制入院を減らす包括ケアが必要

本来、包括ケアとは、退院支援だけではありません。包括ケアとは、多くの施設が連携して、患者の生活全般を多面的に支える仕組みです。これにより、精神状態を安定させたり、介護のための入院を減らしたりする効果が期待できるので、包括ケアは入院の必要性を減らすことができます。日本の強制入院を減らすためにも、包括ケアの普及が必要です。


精神科地域包括ケア病棟は退院支援というメリットがある一方で、強制入院を増やすリスクがあります。これでは包括ケアの本来のメリットが損なわれてしまいます。包括ケアの本来のメリットを取り戻すために、精神科地域包括ケア病棟と精神科救急医療を切り離すべきです。どうしても必要な場合以外に強制入院させない社会が、人権を守る社会です。包括ケアを、退院させるためだけでなく、初めから入院させないために使うことを強く望みます。

 
 
 

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