にも包括
- 精神科の包括ケア
- 5月30日
- 読了時間: 4分

にも包括とは、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の略称です。これは、精神障害の有無にかかわらず、誰もが安心して自分らしく暮らすことができるよう、医療、障害福祉・介護、住まい、社会参加(就労など)、地域の助け合い、普及啓発(教育など)が連携して、精神障害を抱える人の暮らしを包括的に支えるシステムを意味します。
重度の精神疾患になると、普通に働けなくなったり、家事ができなくなったりしますから、そこをサポートするのが「にも包括」です。たとえば、にも包括には、就労支援という、障害を抱えながら働くことをサポートする施設だったり、グループホームというシェアハウスのような施設を整えたりすることが含まれます。
つまり、にも包括は、たとえ重度の精神疾患になっても、自宅に住みながら、あるいはシェアハウスやグループホームなどに住みながら、就労支援を受けて働き、お金を稼ぎ、趣味を楽しみ、友人と会ったりする生活を支えることです。このためには、医療機関で治療を受けるだけでは足りません。障害福祉施設、障害者雇用など、複数の施設や制度が必要になります。そのため、多くの施設の連携も必要になってきます。これは多施設連携と呼ばれます。
にも包括は、平成28年度から国が提起した理念です。元々、高齢者医療などでは地域包括ケアシステムというものがあり、医療や介護などの施設が連携して患者を支援する仕組みが作られていました。しかし、従来の包括ケアシステムは精神障害に対応していなかったため、精神障害「にも」と付けたそうです。とってつけたようなネーミングに不快感を覚える人もいらっしゃるかもしれませんが、誰もが安心して自分らしく暮らすことができるという目的は、公共の福祉に沿ったものと言えるはずです。
特に、働くことを支える仕組み、就労支援の仕組みは、本人だけでなく、社会全体にとって価値のあるものです。なぜなら、働くということは、他の人に価値を提供する行為だからです。たとえば、スーパーで物を売るということは、客側から見たら、自分の欲しい物を手に入れるということです。これが価値の提供になります。このように、にも包括は、精神障害を持つ当事者だけでなく、社会全体の利益につながる仕組みなのです。
しかし、今、にも包括の本来の目的が歪められる心配があります。にも包括は、精神科病院の経営者が主体となって作られています。これでは、にも包括と精神科病院への強制入院が密接に結びつく危険性があります。
日本では、精神障害を持つ方を精神科病院に強制的に入院させて、社会から隔離する政策が続いてきました。
たとえば、幻覚や妄想などの精神症状が原因で犯罪レベルの問題行動を起こしてしまった人は、強制入院により治療しなければならないかもしれません。そうでなければ、犯罪が街にあふれて、他の人が安心して暮らせません。このような強制入院は、措置入院と呼ばれ、警察が逮捕した後に強制入院となります。
しかし、日本の強制入院には、医療保護入院というものもあります。これは、何も悪いことをしていなくても、家族が精神科病院に入院させたくなったら入院させられるシステムになります。しかも、一度精神科病院に入院してしまったら、何年も出られない可能性があるのです。医療保護入院は、家族と仲の悪い人にとっては恐ろしい制度です。国連や日本弁護士連合会は、この医療保護入院が人権侵害につながると問題視しています。
現在、にも包括では、精神科救急医療体制の強化が重視されています。本人が自らの意思で精神科救急に相談できるシステムなら良いことに思います。しかし、精神科救急医療の約半分は、医療保護入院なのです。にも包括と精神科救急医療を結びつけるということは、にも包括と医療保護入院を結びつけることになります。家族の意思で強制的に入院させるシステムが、にも包括に組み込まれることに違和感を持つ人は少なくないはずです。このような仕組みを推進したら、家族と不仲になるだけで強制的に入院させられてしまうかもしれず、安心して暮らすことができません。にも包括の本来の目的に反するように思えます。
繰り返しますが、誰もが自宅に住みながら、あるいはシェアハウスやグループホームなどに住みながら、働いてお金を稼いだり、趣味を楽しんだり、友人と会ったりする生活を支えることが、にも包括の本来の目的です。そのために、医療、障害福祉・介護、住まい、社会参加(就労など)、地域の助け合い、普及啓発(教育など)が連携して、人々の暮らしを支える仕組みが、にも包括です。
本サイトでは、にも包括が、本人や社会にとって価値のあるものになることを強く望みます。
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